子どもが幸せに暮らせる未来へ向けて ~「子どもの権利」を考える~
子どもが健やかに育つ「第二の環境」の確立へ
■時代背景とともに成熟してきた海外の養子事情
海外の養子事情についても紹介しておきたいと思います。主に先進国では実親との関係を解消する養子縁組が日本と比べると、より一般的なものとして浸透しています。
厚生労働省が平成29年に発表した資料(里親及び特別養子縁組の現状について)によれば、人口約3億1439万人のアメリカでは11 万9514人(平成24年度)の養子が成立しています。世界的に有名なハリウッド俳優の元夫婦が、複数の養子を迎えて育てているエピソードをご存知の方も多いかもしれません。アメリカの場合は1980年代にその契機が到来しました。それまでは同じ人種間での養子縁組が主流でしたが、自由主義や多文化主義の台頭とともに中国、ロシア、エチオピアなどを中心にした「国際養子」が急増します。
当時の中国では一人っ子政策が施行されており、国民が男児を好んで選んだ結果、健康な女児が多く手放されたのです。その結果としてアメリカでは、人種が異なる養親と養子の縁組が社会に広く受け入れられるようになりました。
また、1980年に政府が導入した里親養子手当によって、子どもに恵まれない夫婦や単身者が国内で養子を迎えやすくなったことも追い風となりました。
一方、人口約5608万人のイギリス(イングランドおよびウェールズのみ)では、4734人(平成23年度)の養子縁組が成立しています。背景には国による大々的な普及活動があり、テレビやラジオでのコマーシャル、ポスターの製作など日本では考えられないぐらい力を入れた宣伝が行われているのです。里親の研修や支援を行う民間機関にも国が多額の補助金を助成しており、あらゆる面から養子縁組をサポートする環境が整っています。そして日本では人口約1億2708万人に対して、成立が513人(平成26年度)という数字。先進国のなかでは、圧倒的に少ない現状が続いています。
■子どもが幸せに暮らせる未来へ向けて
1980年代のアメリカと同様に、今日の日本では不妊が社会問題のひとつとして注目を集めています。考え方を変えれば、国をはじめとした当事者がそれぞれに尽力することによって、養子縁組が増える契機となり得るのです。縁組が一組でも増えることが、日本の未来にとって喜ばしいことは間違いありません。
そして同時に特別養子縁組は、子どもたちにとってスタートラインでしかありません。彼らが幸せに暮らしていくために、それを支える制度やアクションに、我々大人も当事者意識をもって取り組み続けるべきだと思います。子どもたちを守り、日本の未来も変えましょう。そのために、一緒に声を上げていきましょう。
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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』
著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)
親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。
本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。